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今回のクライアント探訪は、全国一のタクシー保有台数と一万三千人を超えるグループ社員を率いる、第一交通産業株式会社本社をお訪ねし、代表取締役社長 田中亮一郎様にお話をお伺いしました。統計学的に「企業の寿命は30年」と言われますが、現実はずっと厳しく、日本中の登記済み企業の7割強は赤字であり、登記後3年以内に35%は廃業します。創業後5年経つと実に85%が消えてしまい、10年後まで生き残れるのは、たったの6.3%に過ぎません。業界最多のタクシー保有台数を誇り、醸成された企業風土と共に、その社会的ブランドやステータスは最早揺ぎ無いものであるにもかかわらず、いまだ貪欲にベンチャー的進取の気勢を忘れない田中社長に、『目標とされる第一交通産業自体が目標とするものは何か?』など、興味深いお話しをお伺いしました。
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第一交通産業株式会社聞き手
株式会社システムコンストラクション『既に100社程度(M&A)の履歴がありますが、仮にこれをムリして獲るとなると、確実に、買収先のドライバーとお客様を失います。ですから、あくまでドライバーとお客様を買う。その上で、これまでの暖簾をしっかり守る。そこに、プラスアルファーとしてうちのネットワークを付加していく。このスキームを遵守してこそ、質実剛健なるM&Aに繋がるものです。』(田中社長)との説明ですが、同社のスキームは、現在主流の敵対的買収のそれとは全く異なり、あくまで、相手側から依頼されることを源流としており、これはいわば"協調的買収"と云えるものです。依頼先に対する現況洗い出し調査と、この結果によるリバイバルスキームの策定、そして、マネジメントノウハウの刷り込みの結果出現する二次曲線的な業績の回復は、今や財界からも神業と目されるところです。これについては、『専任チームが短期間に集中して買収先に第一交通の文法を溶かし込むことによるものです。この専任チームは、大きな分母から選ばれたスタッフにより構成され、その数も複数に及びます。彼らは、現場のすべてを熟知しており、確かな管理理論に裏書きされた成功の方程式の刷り込みによる協調的買収の実現とその積み重ねは、何より彼らの手腕によるところが大きいものです』(田中社長)唯一無二のビジネスモデルの秘密と秘訣がここに集約されると思われます。
基幹であるタクシー事業は、それを支えるLPガスが折からの原油高騰により40円から90円程度へと急騰したり、また、規制緩和などの不安定な外的環境に曝されていますが、これについては、『確かに、売上げが上昇しても利益率が下がるという環境に直面していますが、どうなるか?ではなく、どうするか!を念頭に、危機感と使命感と責任感を持ち合わせながら対処していきたいと考えます。例えば、90%超の稼働率の更なる効率化や1リットル当たりの走行距離のチェック等、堅実に足元を固め、スケールメリットを背景に、生き残り、勝ち残るために、当社だからできること、当社にしかできないことを創出していきたいと考えます』(田中社長)まさに、地域密着と地域貢献こそが企業活動の原点であり、頂点でありますが、タクシー事業は、広域に網をかけて画一的に出来る仕事ではなく、地域地域で何をやっていくか、トータルで網をかけるのではなく、地域に足りないものを補い、各地域で信頼を得る。これが存続、発展そして承継へのキーワードであることを強く訴求されたのが印象的でした。筆者が最近同社のタクシーに乗車のところ、助手席後部枕カバーに、ドライバーの趣味や笑顔の写真が記載されており、お客との会話やコミュニケーションに直結しているものと実感しました。趣味の欄に、【ドライブ】を標榜するユニークなドライバーにも遭遇し、これが基に車内での会話も弾みました。
設備、価格、間取り、広さ、立地が最大公約数で高度にバランスされている高付加価値提供の秘訣については、『住む方の立場に立って、地域の経済力に見合った物件をご提供するために、用地の取得は決して高値追いをしません。何より、当社の場合用地取得時は現金決済を基本とします。ですから,これは私共が分譲する物件の登記簿をご欄になればすぐに分かる事ですが、当社の場合権利関係で言えば金融機関など,第三者からの抵当は付いていません。』(田中社長)ということば,借入れ金利を考慮し,また,レートの動向を睨みながら,尚且つこれに左右される事業計画にならない,安定した供給体制にあることも同社の分譲事業のポイントと解釈できます。不動産事業に於いては,借入れに依存した事業形態になるほど,販売価格に金利分を付加する必要があることは云うまでもありません。
非常に興味深い新たな同社の取り組みに、通信販売事業部の本格稼動が挙げられます。これは元々、交通事業の営業支援や広告宣伝として始めたとの事ですが、売上げ逓増に伴いバイヤーや通販専門家もプロジェクトに参画し、現在300点もの充実したラインアップを展開しています。地方や観光地では、地元タクシー搭乗時に、現地の情報をドライバーを通して得ることも多く、同社では各車両を移動情報発信基地として位置付けており、『お客様の商品をネットワークに乗せて販売促進の支援をしたい、各地の逸品を探し当てたいと考える途中で、地方公共団体から名物作りのコンサルティングを依頼され、新たなプロジェクトも動き出しています。これは、確かな素材はあるものの、組み合わせやプロデュース手法が分からないという課題に対する支援業務です。』(田中社長)とのコメントは、現場の生の情報の重要性と今後の発展的事業展開を予見させるものです。
ヒト・モノ・カネ・情報といわれるように今や情報自体が資産化しています。情報の収集、蓄積、共有、分析、展開が大切です。同社の各事業間のコラボレートは1つのストラテジーとして誠に理に適っており、同社の現状は、"経営の多角化"ではなく、"経営の深化"の帰結と分析することができます。経営の多角化を志向する経営者は、組織全体として各事業は足し算ではなく掛け算であり、ゼロのセクションが発生すると全体としてゼロとなってしまうことを再認識する必要があると考えます。
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